【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
お願いだから揺らさないでよ。
そうやって生きた方が楽だって、もう誰も傷つけたくないんだって、それだけなんだよ。
「俺お前のそういうとこ、すげえ嫌い」
「わかってもらおうなんて思ってないよ」
冷たく吐き捨てた優理が、ぐっと俺の胸ぐらを掴む。
そういえば。……こうやって絡まれたとき、どうしたらいいのか先輩たちに教わったっけ。
「まつりがどれだけお前のことを気に掛けてるか。
母親が話してる電話の内容ひとつをたまたま聞いただけで、お前がまた父親に何かされたんじゃないか、素直に従わなきゃいけないほど脅されてんじゃないかって、死ぬほど心配してんだぞ」
「だから何、」
「いい加減目ぇ醒ませよ」
ゴツン。
鈍い音と、頭に走る衝撃。くらりと脳が揺れた感覚に足元をすくわれて思わず屈み込めば、「くそ痛ぇわ」となぜか同じように屈んでる優理。
それもそのはず。
だって俺は殴られたんじゃなくて、頭突きされた。
喧嘩って、自分がどれだけダメージを負わないか、でしょ?
なんでおなじように痛み受けてんの。
「……っ、はは、」
痛いに決まってんじゃん、頭突きなんて。
それなら俺の顔一発でも殴ればよかったのに。
「馬鹿じゃないの……」
同じように痛み負って、「痛い」なんて言ってさ。
俺のことなんて、別に放っておけばいいのに。