【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「鼓、うるさい。
そんな馬鹿みたいにデカい声出さなくたって聞こえてるんだから」
「はあ!? 聞こえてるとちゃうわ!
俺置いてさっさと行きやがって……って、その嬢ちゃん誰や?」
きょとんとして、わたしを見る彼。
鼓と呼ばれたその人は、まあいかにも"チャラいです"って格好で。ジーンズは腰パンだし、ベルトホールからシルバーのチェーンがポケットの中へと繋がってる。
キンッキンの金髪はプリンになっていて。
越がこの場にいなかったら、絶対に関わりたくないタイプの男の人。唯一、愛嬌のありそうな笑顔と、この街ではほとんど聞くことの無い関西弁が、印象的だった。
「拾った。いまから朝顔に連れて帰るとこ」
「拾ったって、」
じーっと、目線を合わせて見つめられる。
……うわ、香水の匂い、強い。
「高校生? こんな夜中に何してるん?」
「もうその件ならやったよ。
シズク、そこのバカは置いといていいからおいで」
「誰が馬鹿やって!?」
「鼓」
越が、わたしの手を取る。
細くて白くて、綺麗な手。やっぱり美しい人だな、と、越につられて立ち上がりながら思った。
「俺らは、朝顔っていう暴走族に属してる。
今はパトロール中で、たまたまシズクを見つけたってわけ。本来なら家に帰すところだけど、」
越の手が、フードをめくってわたしの頭を撫でる。
中に詰め込まれていた金髪のロングが、さらりとこぼれるように流れ落ちた。