【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
父さんは、口を開かない。
ただ、俺とまつりのことを黙って見ていた。
「っ、殴り込みに行くって、優理から聞いたんだけど」
「……まあ。間違ってはねえな」
「何してんの!? 俺がどれだけ、」
どれだけ、心配したか。
俺が傷つくだけならまだいい。──だけどもし、父さんが権力を使って、まつりや白雪さんに何かあったら。
「それはこっちのセリフだ。
めんどくせえこと全部抱えて、ひとりで傷ついてんじゃねえよ」
まつりがため息を零す。
それから、「言いたいこと言えよ」と俺を促した。
「……、父さん」
思えば、俺は父さんに思ったことを素直に話したことがあるだろうか。
たしかに差し出された条件を拒否したことはあるけれど、それはただの意思表示であって、思いを伝えたことにはならない。
「俺は、やっぱり言われた進路は歩みたくない」
「………」
「まつりや……ほかにも、大事な人がたくさんいる。
だから父さんに言われて関わりを絶ったこと、本当はずっと後悔してた」
選択が間違ってたわけじゃない。
だけど、それでもずっと後悔はしてた。
「俺は父さんの言いなりにはならない」