【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
父さんは、最後まで何も言わなかった。
ただ「そうか」「好きにすればいい」と、今までの言動が嘘のように、引き下がった。
実はこの時、どうしてこんなにも予定よりも早い時間に父さんが家にいたのか、そして俺が来る前に父さんとまつりが何を話したのかは、どちらにも教えてはもらえなかった。
……でもまあ、お人好しな幼なじみが頑張ってくれたことは確かだ。
「りょーくーん」
「どうしたの? 咲耶」
「おなかすいたぁ」
「……、なんで俺に言うの?」
母さんはその時白雪さんが呼び出していたそうだから、きっと白雪さんも手を貸してくれたんだろう。
おかげで父さんは、俺が彼岸花にもどっても、進路を再度変えて美高にしても、何も言ってこなかった。
「だってさーちゃんが、いまならりょーくんはなんでも言うこと聞いてくれるって言ってたもん」
「……左助さんろくな事言わないよね」
「さーちゃんに伝えていい?」
「なんか買ってあげるからやめて」
彼岸花に改めて入れてほしいと左助さんに直接お願いに行ったら、その場にいたまつりと優理、ひさしぶりに会った快斗までもが、一緒に頭を下げてくれた。
心底面倒そうに「しゃあねえな」と零した左助さんが、俺がもどった翌日に7代目の幹部候補を発表したの、どう考えてもツンデレだと思う。
「まつり、優理、快斗、咲耶。……んで稜介。
7代目幹部候補は以上。あと稜介、今日からお前は罰として6代目の幹部補佐だ。死ぬほど働け」
まあ、何年経ってもずっと口は悪いんだけど。