【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「え……!?」
驚いた声が、考えるよりも早く口をついて出る。
目の前のその人は「大きな声出さないで」と言いながら後ろ手でドアを閉め、さも当たり前のように靴を脱ぎ出した。
「お邪魔します」
「どうぞ……じゃなくて!」
思わず一歩下がって退いてしまったが、そんなことを言っている場合ではない。
ご丁寧に鍵までかけられて、完全に行き場を失う。
「っなんでここにいるの? 越!」
わたしが空けたスペースに収まり、何事も無かったかのように先に廊下を歩いていく彼。
慌ててそれを追いかけながら尋ねれば、リビングにたどり着いてようやく、くるりとわたしを振り返る。
「なんで、って。雫は俺の彼女じゃないの?」
「え。……や、うん、そう、だけど」
「うん。じゃあ問題なくない?
俺はただ彼女の家に遊びに来ただけなんだけど」
「そうじゃないのよ」
わたしが言いたいのはそういうことでは無い。
確かに理屈だけ聞けば越が正しいことに間違いはないけれど。それはここが関東北側だったらの話であって、いまわたしが身を置くこの場所は南側なのだ。
「別に心配しなくていいよ」
ふぅ、と越が小さく息を吐く。
会うのはたった1ヶ月ぶりくらいなのに、なぜかとても緊張した。