【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
ドキ、と心臓が音を立てる。
やましいことは何もないのに、焦燥感とも罪悪感とも言えぬ何かに身を締められて、それを誤魔化すように首を横に振った。
「そう」
その一言を、一体どんな気持ちで口にしているんだろう。
頬に触れていた手を後頭部に滑らせて、感情の読めない声で。
「じゃあ、今も俺だけのもんだね」
発せられた言葉に、どうしてか泣きそうになった。
そんなわたしの気持ちも言葉も端から求めていないんだろう越は、そのまま噛み付くようなキスをする。
「んっ、」
この後どうなるのかを、わたしはよく知っていて。
予想通り、ソファに押し倒される。
「……雫」
「っ、ひゃ……」
耳元でわたしの名前を呼んで、流れるようにそのまま耳たぶを食まれた。
痛くない程度に歯を立てられたせいで思わず漏れた声に恥ずかしくなって顔を覆えば、越はイタズラな笑みを浮かべながらわたしの手を押し退ける。
「真っ赤」
「越が耳噛むから……!」
「知ってる。かわいい」
「なっ、」