【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
だって越がそんなこと言うわけないし。
疑ったまま彼を見つめれば、「嘘ではないけど」と小さくこぼして。
「敵情視察みたいなものだよ」
「……、彼岸花のところに行くの?」
「いや、雫との繋がりがバレたら計画は水の泡でしょ。
だからまあ、一方的に色々見に来たってだけ」
「……なるほど」
好きな人の腕の中って、すごく安心してしまうわけで。目を閉じれば自然と微睡んでくる。
いつの間にかふたり揃って寝落ちてしまって。
目が覚めた時には、夕方もいい頃だった。
「ん、」
ヴー、ヴー。
一定間隔で聞こえるバイブレーション。はっと身体を起こしてそれを手に取ったわたしは、一瞬後悔する。
間違えた、これわたしのじゃなくて越のスマホだ。
でも表示されてる相手は『鼓』だし、出ちゃってもいいよね……?
「なにしてんの」
「あ、」
するり。
回されてきた腕が、器用に後ろからスマホを抜き取っていく。液晶を指で撫でて「もしもし?」と応えた越の声は、心底めんどくさそうだった。
『越、お前どこにおるん!?
もしかして瑠里──「雫のとこ」』