【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
越のことだから、わざわざここで嘘はつかないだろう。
仮にやましい事があるのだとしたら話を深堀りしてきたわたしとの関係を手っ取り早く切るだろうし、それは疑ってない。
……でも。
「じゃあどうして、
その子に会ってからここに来たこと隠したの?」
「、」
「ハルちゃんの香水って話嘘よね?
今日は朝からイベントに行くって話、ハルちゃんから直接聞いたんだけど」
「それは、」
わずかなことでささくれ立ってしまった気持ちは、理屈では追い付かない。
越が確実にめんどくさがるのは分かっているのに、その言葉はとどまることを知らなかった。
「言ったじゃん、黙ってたって。
瑠里のこと知られるなんて思わなかったから、そういう風に誤魔化すしかなかっただけだよ」
「っ、それを誤魔化しきれなかったんだから、
何かわたしに言うことあるんじゃないの?」
「……ごめん。お願いだから、そんな怒んないでよ」
越の手が、わたしの手を指先から絡め取る。
本当に困っているようで、「ごめんね」と囁かれた声は、かなり頼りなかった。
「ほんとに雫だけだよ」
「……うん」
勢いよく怒ってしまったから、お腹の中にもやもやとしたものが残る。
視線を上げれば越と目が合って、ほんの一瞬触れただけのキスは、いつもの何倍も優しかった。