【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-







「……じゃあ、気を付けてね」



「ん。また来るよ」



越が帰っていったのは、結局翌朝だった。

一緒にいるところを見られたらマズいから夕飯の買い出しもわたしひとりで行ったけれど、作ったものを越が「美味しい」って褒めてくれたから嬉しかった。



スマホと財布以外持たずに来ていたものだからてっきりその日のうちに帰るのかと思っていたけど。

……うちに置いてあった越の荷物、引越しのときに持ってきておいてよかった。



ひらひら、扉から顔を出して越に手を振る。

一度振り返った彼は手を上げてそれに応えてくれて、昨日のもやもやもすこしは晴れた。



「ん?」



部屋にもどって10分くらい経ってから、勢いよく震えるスマホ。

どうやら電話らしく、相手は咲ちゃんだ。




「もしもし、咲ちゃん?」



『あっ、しずくんしずくん!

よかったー! いまって、お家にいる?』



「うん、家だけど、」



『たぶんぼく、いましずくん家の近くにいると思うんだけどー。

んー、こっちであってるのかなぁ』



「近く? 何かあったの?」



『朝顔の7代目が近くにいたって噂がさっきまわってきてねー?

姫であるしずくんが狙われてるかもしれないからとりあえずお迎えにでも行こうと思ったんだけど、ぼく家の場所わかんなくてー』



ひやりと、肝が冷える。

危ない。あともう少し早ければ、越と咲ちゃんがばったり出くわしてしまうところだった。



< 206 / 295 >

この作品をシェア

pagetop