【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



休みの前は毎日のように一緒にいたものだから、いないと落ち着かないっていうか。

越とばったり会ってたり、なんてことがあったらどうしよう、とか。色々考えてしまうだけ。



「ぼくねー、むずかしいことあんまりわかんないんだよねー。

稜くんは一時期抜けてたけど、それを含めてもほかのメンバーよりぼくが彼岸花に入ったのって遅くて」



「うん、抜けてた間に咲ちゃんは彼岸花に入ったんでしょ?

この間稜くんから教えてもらったわ」



「そうそー。だからぼく、みんなのことそんなに知ってるわけじゃないんだよー。

でもみんなぼくに優しいし、たぶん、しずくんに対しても同じように優しくするのが当たり前って感じで」



人が良いよね、みんな、と。

咲ちゃんは流れるような仕草でプリンを開封し、一緒に入っていたスプーンでそれを掬う。



「……あのね、雫ちゃん」



珍しくちゃんと名前を呼ばれて、顔を上げる。

咲ちゃんはすこし困ったように笑って、その姿がなぜかとても哀しく見えた。いつもの明るい咲ちゃんとは違うその雰囲気に、言葉を呑む。




「稜くんの話の続きなんだけど。

……稜くんの父親の議員、誰だか知ってる?」



「ううん。

井瀬谷がお母様の名字ってことしか聞いてないわ」



「柳だよ」



まっすぐ。

放たれたその言葉に、頭がぐらりと揺れる。



……まって。"柳"って、ことは。



「ぼくと稜くん。……兄弟なんだよ」



言葉が、出てこなかった。

つまり、稜くんの父親である柳議員は咲ちゃんの父親であって、家族で。その子どもであるふたりは、異母兄弟ということになる。



< 208 / 295 >

この作品をシェア

pagetop