【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「稜くんの方がね、産まれたのも早いし。
ややこしくて面倒な話なんだけどね」
咲ちゃんがこぼしたため息。
それは別に、誰を恨んでるわけでもなく。
「うちの父さんは、ぼくと稜くんが会うことを望んでなかった。
だからぼくは稜くんが入るはずだった中学……かいくんが入ってたところとは、別の私立中学に通ってて。みんなとは面識なかったんだけど」
ただ自分の過去を憂いているように見えた。
「稜くんが彼岸花にいない間にぼくが彼岸花に入ったのは、まつりんが僕のことを勧誘しに来たから。
父さんが稜くんに構ってる間に、もうひとりの息子が彼岸花に入ったことで、父さんの中で保っていたはずのバランスが一気に崩壊した」
「じゃあ、稜くんが急に彼岸花にもどることを許されたのって……」
「別々の人生を歩んでたはずの息子ふたりが、同じ組織に入った。しかも"暴走族"。
父さんは、そこでやっと、自分が育て方を間違ったことに気がついた」
プライドが高い柳議員は、それを認めたくなかった。
だけど次に口を出せば、同じ意志を持つ子どもたちが今度こそ自分の手中に収まらなくなることを、恐れた。
「父さんがダメだったところは、息子の出来が悪いことを利用としたところじゃない。
出来の悪い息子たちを結び付けてしまう強力な仲間が、息子の隣にいることに気付けなかったこと」
まつりは、きっと。
稜くんのことを助けたい気持ちで、いっぱいだったんだろう。……本当に、優しい人なんだと思う。
守りたいものは、自分で守る。
そのために努力して、7代目のトップに上り詰めた。
そして結果的に、彼は咲ちゃんのことも救った。
稜くんがわたしに過去のことを話してくれたあの時、柳議員が息子に対して『愚息が役立たず』と言ったことをわたしは覚えてる。それは咲ちゃんのことだ。
「わたし……
柳議員に会うことがあったら、殴っちゃうかも」
わたしの言葉に、きょとんとして。
それから咲ちゃんは何が面白かったのか、くすくすと笑う。