【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
本当に、左助さんはまつりんのことが大好きだ。
そしてそれは逆も然りなんだけど、「うるせえ」と突き放すまつりん。どっちも素直じゃない。
ようやく解放されてほっと息をついてる彼女にふらっと近寄って行ったのはすぐりんで、そのまま短く何か声を掛けたかと思うと、ふたりで2階に上がっていく。
……というより、すぐりんがしずくんを連れて行った。
「あ? なんだ、優理のヤツ、」
「ええ、まーちゃん、好きな子かぶってんの?
なになに、あの子に何の魅力があるの?」
「……うぜぇ」
まつりんの言葉をそのまま借りるなら千鶴さんは下半身がかなり緩めのクソ野郎だけど、こういうことに関してはかなり察しがいい。
人の感情に聡くて、変化に誰よりも早く気づく。
「ああ、本気になっちゃったんだ」なんて笑ってるから、すぐりんの気持ちもお見通しなんだろう。
ぼくはあんまり6代目を敵に回したくないよ。
「いつかやると思ってたけどね。
まーちゃんと女の子被って複雑になってんじゃん」
「それくらい魅力的な子を見つけたってことですよ。
まつり。そんな怒んないで機嫌なおしなよ」
稜くんに宥められて「怒ってねえよ」とまつりんは言ってるけど、絶対に2階のことを気にしてる。
これでしずくんが誰かを好きだったらもう少しみんなの気持ちも落ち着くんだろうけど、まだ誰のものにもなっていないことで、余計に燃えてしまうらしい。
「俺的には、快斗も……
っていうか、なんだろ。全員、恋愛じゃないのかもしれないけど、なんか彼女に揺らされてるね?」
「………」
「別に誰を好きになろうと、何しようと勝手だけど。
……左助から引き継いだ7代目を壊すようなことだけは、絶対にしないでよ?」
千鶴さんは普段ふざけてるけど、彼岸花思いで、大切な左助さんの右腕。
だからこそ、6代目の副総長だった。ぼくがお世話になったのは短い期間だったけど、それでも尊敬に値する人物の一人だ。