【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



いつの間にか、何が原因か分からなくなってる。

微妙な空気が流れて誰も口を開かなくなった。──その空白を狙ったように、鳴り響いた着信音。



それはどうやら、この話題の渦中である姫のスマホだったようで。

画面で相手を確認した彼女は、そっと指で液晶を撫でた。



「もしもし? ごめん今ちょっと……」



『───』



「っ、パパ?

なんで二乃(にの)の携帯から……ち、違うわよ。ちょっと忙しくて連絡できてなかっただけよ。うんっ、パパのこと忘れてないから、っね?」



『───』



「もちろん大好きよ。また連絡するね」




ニコニコ。出逢ってから今まで見た中で一番愛らしく笑みを浮かべて電話を終えた彼女は、次の瞬間その表情を無に戻す。

それから、「とにかく!」と声を上げて。



「何も無いからこの話は終わり!

わたし、こんなことで揉めるために姫になったわけじゃないから。今日は帰るね」



「待って雫ちゃん、送ってくよ」



「ありがとう稜くん。

でも大丈夫。播磨くんに送ってもらうことにするわ」



パタン。

ドアが閉じて、ぼくたち5人だけが取り残される。



「……もう。

俺もあんまり言いたくないけど、さすがにみんな挑発しすぎだよ。雫ちゃんが怒るのも無理ないって」



「……、ごめん」



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