【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
また始まった。
ぼくもう帰りたいなー。しずくん帰っちゃったしー。
「3人とも。
べつに好きなのはいいけどさ、やっぱりそれで雫ちゃんを嫌な目に合わせてたら意味無いでしょ。もうちょっと自重してよ」
「……まあ、それはそうだけど」
「あんまり酷いならそれ相応の対処するからね」
彼女は確かに魅力的な女の子で自慢の姫だけど、それにしても3人とも熱が入りすぎというかなんというか。
今までならもっと冷静に対処してたことも、しずくんが絡むと思考が凝り固まったかのように喧嘩になる。
「北の7代目が付近にいたって話もあるし。
……俺らがこんなんだと、いざという時に雫ちゃんのこと守れるかどうかも怪しいよ」
いざという時。
そんなの、来ないに越したことはないけれど。
「さて、じゃあ気分転換にご飯でも食べに行こ。
雫ちゃん帰っちゃったけど、一応行かないか誘ってみるよ」
「ぼくが電話する!」
スマホを取り出し、しずくんの番号にかける。
数コールで出た彼女は「どうしたの?咲ちゃん」といつも通りの優しい声で、一緒にご飯に行こうよと誘うと、くすくすと笑った。
『仕方ないなぁ。
播磨くん、悪いんだけどこのまま引き返してもいい?』
『うん、もちろん。
柳くん、まだ僕ら大通りの交差点にいるんで』
「じゃあそこで待っててー! すぐ追いつく!」
すぐ行こう!とみんなを急かして、倉庫を出る。
追いつけば彼女は「さっきは言い過ぎちゃった」ってみんなに謝ってたけど。ようやくいつも通りに戻った雰囲気に、ぼくもようやくホッと胸をなでおろした。