【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
瑠里香に関しては、基本的に越としか関わらない。
そして越の姿がないと喚き散らし、もうひとりの幼なじみである鼓がそれを上手く収めるまで、その癇癪が続く。
実際、昨日一日越はここに来なかった。
鼓から『瑠里の面倒見んとあかんから行けへんわ』と連絡が来てたし、鼓によれば越は昨日雫に会いに行っていたらしい。
おそらくさっき帰ってきたんだろう。
そこから瑠里香の相手をしているが、瑠里香がまだ納得してない状況にある。……と、言ったところか。
「しゃあないんよ。
ああでも言わんと、瑠里香何するか分からへんし」
瑠里香に、越に彼女がいるとバレたのは中3の途中。
越のことをとにかく愛している瑠里香は、越に彼女が出来るなんてことをもちろん許すわけがない。
そこで雫に危害が及ぶことを避けようとした越は、「彼女とは卒業までの間しか付き合わない」と言い切った。
もちろんそれは嘘だが、丁度雫が南に行くことが決まっていたおかげで、雫を上手く逃がすことが出来た。
……のが事実らしい(これも鼓から聞いた)が、プライドの高い越がそれを雫に話しているとも思えない。
後々誤解を生むようなことにならないと良いが。
「えっちゃんがいなかったら死にたがるだけでしょ?
いいじゃん、死にたきゃ好きにすれば」
「ハル。さすがにそれは良くねえって」
「だってケンちゃんもうざいって思うでしょ?
静だって、雫ちゃんのことは受け入れてたけど、瑠里香のこと嫌そうにしてるじゃん。なんで追い払えないの?そこまでして幼なじみのこと守る必要あるの?」
元々ほとんど話すことのない性格をしているせいで、雫が俺に話し掛けてくることはあまり無かった。
……が、雫は俺のことを見捨てることはなかったし、当たり前のように気にかけてくれていたことは知っている。
「越にも色々あるんよ。
……まあ、毎日瑠里の相手すんのさすがに疲れたんやろな。だから時間かけてまで雫ちゃんに会いに行ったんやろ」
「そのうちえっちゃんが死にそうな顔してるけどね」
確かにここ最近の越は顔色が悪い。
普通に振舞おうとしているが、内心ずっと苛立っているようにも見える。ただでさえトップになったところで気を遣っているのに、瑠里香のことで神経をすり減らしてロクに眠れてもいないんだろう。