【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
初対面なのにそう思うなんて、変なのかな。
でも嫌悪感なんて、微塵も感じなかった。
「ん、ならよかった。
鼓、いつまでも固まってないで行くよ」
「はっ……!
いやいや、ナチュラルに何しとんねん!?」
「別に。東さんには黙っといてよ。
あの人こういうのに関してはうるさいから」
ドクドクと、心臓の音がうるさい。
背の高い越の姿を後ろから眺めているだけで、なんだか胸が苦しく感じる。
「さて、と。ここが朝顔のたまり場だよ、雫」
賑やかな鼓と、美しい越と、人目を気にすることなく繁華街を抜けて。
たどり着いたのは、海辺にある大きな倉庫。その先に見える海が真っ暗で、何かあるわけでもないのにゾクッとした。
「東さん以外には声掛けられても無視ね」
そんな忠告をしてから、越が意外にも軽そうな動きでシャッターを持ち上げる。
その中から漏れてくる光はかなり明るくて、暗闇に溶け込んでいた視界を慣らすために、何度か瞬きした。
「おかえりー、越、鼓。
遅かったから何かあったのかと思って心配したよ」
「街は特に何もなかったで。
まあ、"何か"って言われたらあったんやけど?」
「ん? 越、そのコ、どうしたの?」
夜中も夜中だというのに、倉庫の中には何人か人の姿が見える。
黒縁メガネをかけたその人は、到底暴走族に入ってるようには思えない風貌だけど。
「拾ってきた」