【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「そこまで気に病んでないよ」
ドアが開いて、越が中に入ってくる。
瑠里香の相手が一旦終わったらしい。ため息をつきながら定位置に座った越は白いスマホを手早く操作して、それを耳に当てた。……珍しいな、電話なんて。
「……うざ。出ないし」
「雫ちゃん?」
「どうせ彼岸花の誰かといるんだろうね」
チッと舌打ちした越。
それから口を開かなくなったかと思えば、数分後に着信音が鳴り響く。ちらっと目線だけでその相手を確認し、越は「遅い」とボヤきながら通話に出た。
……まったく、素直じゃないな。
「そっちに忘れ物した。
指輪。ベッドの横とかに置いてない?」
『指輪? 越指輪なんて付けてたっけ?
ちょっと待って……、うん? もしかしてこれ?』
「そう。たぶんそれ。
こっち帰ってから忘れたの気付いたから、とりあえず雫が持っといて」
『でもこれって明らかに越の付けるサイズじゃ……
っ、もしかして、わたしのために買ってくれたの?』
「さあ? "忘れ物"って言ってんじゃん。
……まあ好きに解釈すればいいと思うけど」
『っ……』
「どうせそれ雫の薬指に嵌るサイズでしょ?
いいよ、仕方ないからあげる」