【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



本当に素直じゃないな。

プレゼントだと渡してやればいいものをその場で渡してこないのも、わざわざこの会話をスピーカーにして全員に聞こえるようにしているのも。



『あ、りがとう、越』



「ん。失くすなよ」



『うん……大事にする』



「じゃ、それだけ」



『待っ、ねえ越、あのね──』



プツッとそこでスピーカーを切り、スマホを耳に当て直す越。

雫から告げられた何かしらの言葉にふっと口角を上げて、「知ってる」と一言。




その表情が、瑠里香を相手にする時とはまるで違う優しい顔になっている自覚はあるのか、否か。

それを見せつけられると、ハルも何も言えなくなるらしい。飲みかけだったパックジュースのストローを悔しそうに噛んでいる。



「じゃあ、また騒ぎ出す前に瑠里の相手してくるよ」



電話を終わらせ、越が立ち上がる。

それをハルが「えっちゃん」と呼び止めた。



「ん?」



「雫ちゃんのこと、ほんとに好きなんだよね?」



そんなの、聞くまでもない。

越が電話の内容をわざわざ俺らに聞かせ、そのあと雫の言葉は聞かせなかった理由なんて。──"独占欲"でしかないだろ。



「俺が好きでもない女に指輪渡すと思ってんの?」



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