【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
真面目そうな、いかにもキャリアウーマンって感じの女性。
頭を下げて名乗り、手土産を渡す。ニコッと笑ってくれた彼女は、わたしたちを部屋の中へと招いてくれた。……うん、今のところ特に問題は無いわね。
「おかえり」
「あー……ただいま」
リビングに入ると、ソファに座ってゆったりと口元にマグカップを運んでいる男性。
やわらかい雰囲気の空間に溶けるコーヒーの芳醇な香り。どうやら快斗は、どちらかといえば父親似らしい。
「はじめまして。うちの快斗がお世話になってます」
「はじめまして。東山 雫です。
わたしこそ、快斗くんにはいつも助けられてて……」
別に間違ったことは言ってない。
彼岸花の幹部として支えてくれるひとりであることは確かだし。具体的に何を、と聞かれたら困るけど。
「そんな堅苦しい挨拶がしたいわけじゃないでしょ?
ほらふたりとも、飲み物紅茶でいいかしら」
「はい、ありがとうございます」
おふたりとも教師だって、以前に聞いているし。
わたしの髪色も派手だから、初手から冷たくされることも想定していたけれど、そんなことは無いらしい。ソファに腰掛け、ちらりと横目で快斗を見る。
「……で、帰ってきてどうしろって?」
「忙しないな。
たまには顔を見せに来なさいと言っただけだろ?」
「"たまには"って、春休みにも帰ってきただろ」
「離れて暮らす息子が心配なのは当たり前じゃないか」