【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
越のその言葉にも、顔色一つ変えない。
だからすぐに分かった。この暴走族なんて言葉に似つかわしくないこの人こそが、越や鼓の言っていた"東さん"だと。
「ウチは捨て猫の保護はしてないんだよ、越」
「知ってるよ。
ただ、ココに出入りさせても構わないかって許可もらいに来ただけ」
「それが保護だって言ってるんだよ」
感情の読めない声。
最初に冷たく感じた越よりも、もっともっと冷たい声。
「……ええと。名前は?」
それを幾分か柔らかくして、東さんはわたしに尋ねる。
越の時のように駆け引きせず素直に本名を伝えれば、彼は「雫ちゃん」とわたしの名前を呼んで、それから越を見た。
「5分だけくれる? 越と話をしてくるから」
「あ、はい……」
「越。2階」
「はーい。……いい子で待ってなよ」
「っ」
わたしの耳元でささやかれた、わたしにしか聞こえないそれ。
甘いわけでもないし、子どもに言い聞かせるような声とも違う。深くて艶があるせいで、無条件で頬を染めてしまった。
「あーあ……アカン。
これはもう完全に落ちとるやないか」