【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



越のその言葉にも、顔色一つ変えない。

だからすぐに分かった。この暴走族なんて言葉に似つかわしくないこの人こそが、越や鼓の言っていた"東さん"だと。



「ウチは捨て猫の保護はしてないんだよ、越」



「知ってるよ。

ただ、ココに出入りさせても構わないかって許可もらいに来ただけ」



「それが保護だって言ってるんだよ」



感情の読めない声。

最初に冷たく感じた越よりも、もっともっと冷たい声。



「……ええと。名前は?」



それを幾分か柔らかくして、東さんはわたしに尋ねる。

越の時のように駆け引きせず素直に本名を伝えれば、彼は「雫ちゃん」とわたしの名前を呼んで、それから越を見た。




「5分だけくれる? 越と話をしてくるから」



「あ、はい……」



「越。2階」



「はーい。……いい子で待ってなよ」



「っ」



わたしの耳元でささやかれた、わたしにしか聞こえないそれ。

甘いわけでもないし、子どもに言い聞かせるような声とも違う。深くて艶があるせいで、無条件で頬を染めてしまった。



「あーあ……アカン。

これはもう完全に落ちとるやないか」



< 24 / 295 >

この作品をシェア

pagetop