【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
誰にだって、あの時の感情は覆せない。
それが例え、張本人であるわたしだとしても。
「肝据わってんな、相変わらず」
「そう?
めんどくさがり屋で関心がないだけだと思うわよ」
越のために、わたしは今ここにいるだけ。
それ以上も以下も無いんだと思い出した。……いけない、ついついみんなに絆されてたわ。わたしは"朝顔"7代目の姫。
「そうだ。快斗、あのね」
不意に。
話があったことを思い出してスマホを取ろうとすこし体勢を変えたとき。──さらりと流れたわたしの髪を梳くように、触れる指先。
そっと髪を持ち上げられる感覚と。
首裏に触れたやわらかさに、理解するよりも早く頬が赤く染まるのを感じた。
「な…っ、快、」
ちくり。
肌を吸われ、ほんの一瞬感じた痛みに、眉間を寄せる。何をされたのかなんて、わたしがどれだけ鈍くたってわかる。
同じ痛みを、越に何度も与えられたことがある。
「……他人に振り回されんのは嫌いだっつってんだろ」
「快、」
「よりによってお前かよ」
はあ、と彼が心底めんどくさそうにわたしを見る。
いやいや、文句を言いたいのはわたしの方なんですが……?