【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



「ぅわ、っ」



「色気ねーな」



ぐっと腕を引っ張られ、身体がバランスを崩して傾く。

頭ぶつける!と咄嗟に悟って目を瞑るけれど痛みは来なくて、後頭部を手で支えられたことだけは感触で分かった。



「だって快斗が急に引っ張る、か、ら……」



言葉が、みるみるうちに勢いを失う。

ここに来てようやく、自分の立場を察するわたし。



背中には床に敷かれた毛並みの長いラグ。

目の前には力じゃ絶対に敵うことのない相手。



両脚の間に脚を割り入れられて、少なくともわたしが簡単に抜け出す逃げ場はない。

これが越なら、わたしはきっと嫌悪感なんて微塵も抱かないんだろうけれど。




「……、何するつもり?」



「さあ? 察してんじゃねーの?」



「わたしが察してる通りなんだとしたら、

この後わたしはあなたのことを嫌いになるわよ」



「だろーな」



きっぱり言いきられて、心がすこしざわつく。

……素直にこのまま離れてくれたら、これ以上余計なことは考えなくて済むのに。



「……本当にその気なら、好きにすればいいと思う」



無意識に入った身体の力を抜く。

諦めとも無関心とも取れるわたしの態度に「お前、」と一言こぼした快斗は、結局何も言わないまま身体を起こした。視界に天井がうつる。……ああ、どうしよう。



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