【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「でも彼女が泣いてるときにその態度はどうなのかしら。
まったくもう。……そうそう、お菓子持ってきたからよかったらどうぞ」
「あ、りがとうございます」
兎にも角にも、部屋に入ってこられたのがこのタイミングでよかった。
「返事する前に開けんなよ」と快斗はため息をつくけれど、内心ホッとしているようにも見える。首筋に触れられた、あの時じゃなくてよかった。──じんわり、そこが熱を持つ。
「……悪い、騒がしくて。
普段そんなことねーのに、お前連れてきたから浮かれてんだろーな」
パタンと、閉ざされた扉。
足音が遠ざかってから告げた快斗に、首を横に振る。
「ふふっ、それで浮かれるなんて可愛いお母様じゃない?」
本当に快斗のことを大事に思っていることは、十分に伝わってくる。
話だって言い分を聞いてくれないわけじゃないし、快斗のお母様なりに、快斗に寄り添おうとしているんだろう。快斗の気持ちが分からないわけじゃないけど。
「……なー、雫」
「うん?」
「オメー、なんか隠し事してんだろ」
ゆびさきが、ほんの少しブレるような。
唐突な動揺をほんのわずかにとどめて、眉間を寄せる。
「……隠し事?」
かなり早く事が進んだのと、まつりに何故か好意を持たれているという二点を除けば、ボロは出していないはず。
何の話だと快斗を真っ直ぐに見つめれば、彼はジッとわたしのことを見つめ返す。──そして。
「──いや、俺の気の所為っつーことにするわ」