【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
一途と言えば聞こえはいいけど、瑠里の気持ちは度を過ぎてる。
越のことだけが好きで、それが満たされなくなると死にたがる。手首が傷だらけになるのを阻止するのだって、簡単なことじゃない。
……そんなん、俺が言わんくたって越はわかってるんやけど。
むしろ張本人やからこそ、苦しんでるのも知ってる。
「……、ありがとう」
プライドがエベレスト級の越がその言葉を吐くくらいだ。
越の考えだけでは、瑠里のことはどうにもならない。
「ちょっとは雫ちゃんに会うて回復した?」
「ちょっとどころじゃないよ。
正直、帰ってくるのやめようかと思った」
甘ったるいそれに苦笑する。
越にそんなこと言われたい女は底を尽きないし、その頂点が瑠里なんやろうけど、それらを遥かに凌駕する雫ちゃんの存在。
「はいはい。
惚気けるんやったらハルにでも惚気けたらええんちゃう?」
「ハルは俺が雫を大事にしてもしなくてもキレる」
「好きやからなぁ、雫ちゃんのこと」
「タチ悪いんだよ、遥人のは」
人間、感情はひとつじゃない。
それは想いの形だってそうで、ハルは女の子になりたい男だし、気持ち的には女の子だけど、雫ちゃんのことが好きだ。それは仲間として友達としてもそうやけど、恋愛感情的にも好きなんやろうなぁ。
でも雫ちゃんの邪魔する気はないし、越と雫ちゃんが上手くいってれば機嫌いいっていうか。
難しいんよな、ハルの感情。本人にしか理解できない独特のペースで生きてるし。
俺らの尊重し合えるとこは、
それを誰もバカにせぇへんとこやろ。