【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
◆
「っ、ケンちゃんの大バカ!! もうしらない!!」
「ちょっ、ハル……っ」
──階下から、ハルのバカでかい声が聞こえてきた。
それと同時に、幹部室の中の全員が一瞬目線を合わせる。ハルと兼が言い合うのはよくあることだが、結構ガチめの声が聞こえた。何したん。
「っうわぁん、雫ちゃんんんんっ」
「どうしたのハルちゃん」
バン!と勢いよく開く幹部室の扉。
そこから飛び込んできたちっちゃい塊は、一直線に姫の元へ向かう。ぎゅっと抱きついて顔を見せもしない。
そんなハルに無表情で舌打ちしそうな越と。
目線はスマホだが、耳は傾けている静。
「ケンちゃんがハルの前髪しっぱいしたぁ……っ」
「……、切ってもらったの?」
「っ、だってケンちゃんが自信あるって言ったもん!」
ンなアホな。
兼のその一言はいちばん信用ならんやろ、と思ったのは俺だけやないと思う。たぶん全員思った。兼の自信あるっていうのは過信なだけや。
「ハルっ。ごめんって」
「ケンちゃんなんてきらいいいぃ」
兼の実家は美容室やし、本人も美容師志望。
それ故に信じたんかもしれんけど、無理やろ。美容師って国家資格やねんから、そこらの素人ができるもんちゃうって。