【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「……ハルちゃん、顔上げて」
「やだぁ、絶対わらうもんっ」
「笑わないわよ。ね?」
「……うぅ」
ハルがそろりと顔を上げる。
綺麗なミルクティー色のボブは後ろから見てもわかるぐらい不安そうに揺れていたが、ハルの前髪を確認した雫ちゃんは優しく笑って「越」と一言。
「……、言うと思った」
越は越でめんどくさそうに立ち上がって。
兼が持っていたハサミを受け取ると、「遥人」とハルを呼ぶ。
「……ハルだもん」
「そんなのいいから。こっち」
「切るの?」
「いいから、黙ってこっち」
雑やな。
雫ちゃんに背中を押されてハルは俯いたまま越に指定された所へ座るけど、あれが俺やったら越のことも信用ならん。失敗された後なら尚更疑心暗鬼なんちゃうの?
「はい。さっきよりマシでしょ」
ハルにゴミ箱を抱えさせてその前髪にハサミを入れた越は、ものの数十秒でその手を止める。
待ってましたと言わんばかりに雫ちゃんが手鏡を差し出して、それを覗き込んだハルはパッと花開くように顔を輝かせた。