【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「なおったぁっ。
えっちゃんたまにはやるじゃんんん」
「……あ? 先にお礼じゃないの?」
「ありがとうございますぅ」
「腹立つんだけど」
俺は失敗されたその髪を見てないからなんとも言えへんけど、眉上でぱつんと綺麗に揃えられた髪。
いつも以上にハルが女の子らしく見えるその髪型は、きちんとその容姿に似合っていた。
「ふふっ、こういうのは越に任せるのが一番よね」
雫ちゃんは前髪の短くなったハルをかわいいと褒めているし、ハルはそれを聞いて嬉しそうに笑ってる。
その姿を見るとついほっこりするのは、姫の穏やかな性格のおかげやと思う。間違いない。
「よかったやん、なおしてもらえて」
「あのままだったらハル引きこもっちゃうとこだったぁ。
ケンちゃんの言うことは二度と信用しないもんねぇ」
「えっ」
「……兼が美容師諦めたらハルのせいやろなぁ」
信用しない、嫌い、と言われて石のように固まる兼。
むしろそこまで言われないと危機感を抱かないのもどうなんとは思うけど。その明るくてタフな性格は美容師に向いてるのに、腕だけで言えばたぶん越の方が良い。
「そんなことないわよ、兼。
わたしがこの間兼にやってもらったヘアセット、パパとママと越には好評だったもの」
そしてそこに訪れる、女神の一声。
雫ちゃんの言葉に兼は立ち直ってニコニコする。忙しいやっちゃな。