【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
翌日。
越といつもよりすこし遅い時間に溜まり場に来た雫ちゃんは、おはようと同時にハルを呼ぶ。
「なぁにー? 雫ちゃん」
「はい、これ。ハルちゃんにプレゼント」
10センチ四方の、小さなピンクの紙袋。
それを受け取ったハルは不思議そうな顔をしながらお礼を言って、その包装を解く。
「これ……」
「越に整えてもらってたから、必要ないかもしれないけど。
たまには前髪上げたら気分も変わるかなと思って」
"ハル"らしい、桜がモチーフのヘアピン。
ゴールドのピン部分に桜のピンクの組み合わせが美しい、可愛らしいそれ。
「いいの……? ハルにくれるの?」
「うん、ハルちゃんのために買ったんだもの」
「勘弁してよほんと。
それひとつのために3店舗ぐらい雑貨屋付き合わされたんだけど」
うるうると、ハルの瞳が潤む。
そのままぽろぽろと零れては落ちていく涙は透明で澄んでいた。
「ありがとぉ、ハル大事にする……っ」
「使いたい時に付けてくれたらいいのよ」
ミルクティーによく似合う、桜のピン。
もらったその日から、ハルはずっと欠かさずにそれを前髪にとめてる。