【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「、中津。その格好どうした?」
こういう時、大人は誰も何の役にも立たないことを、ハルは知ってる。
分かってたしもう諦めてたけど、それでも鬱陶しくてずぶ濡れのまま5限目を迎えたのは、ただの反抗期みたいなものだったんだと思う。
「………」
「保健室に行って、着替えてきなさい」
イジメを受けてることは、きっと教師も分かってる。
でも変なことに巻き込まれるのは嫌で、誰もハルに手を差し伸べようとはしない。やっぱり、誰も当てにはならない。
「……はい」
席を立って、濡れたまま廊下を歩く。
きっとハルがいなくなった教室は、一瞬気まずい空気を残して、それから、何事も無かったかのように授業がはじまるんだろう。
ハルがいなくても世界は回る。
なのに、世間の目は、ハルを放っといてくれない。
もううんざりだ、何もかも。
性別が違うだけで、変だとされる世界だもん。
「遥人。今日学校から電話がかかってきたわよ」
「、」
家に帰ると、母親がそう言った。
ハルの父親は気が弱くて、ハルに何の口も出してこない他人みたいな人。同じ家にいたって空気みたいな、よくわかんない父親。
「……虐められてるのか?」
そんな父親にまで、そう尋ねられた。
──その瞬間、あたまのなかで、なにかが爆発した。