【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



「遥人、待ちなさい……!」



玄関のスニーカーに足を入れ、制服のままで家を飛び出す。

気持ち悪い。なんでまともに出来ないんだってその目が、その声が、その態度が。すべてがハルのことを責めてるみたいだ。嫌になる、うんざりする、吐き気がする。



ハルは、女の子に、生まれたかったんだよ。



ただそれだけ。

好きなものを、好きでいたかっただけ。



「っ、はぁ」



授業なんてまともに受けてないから、体育もサボってばっかりだったから、こんなに走るとすぐに視界が眩む。

気付けば繁華街の中にいて、まわりの人々はハルのことを好奇の目で見てきたけれど、それもどうでも良さそうに逸れていく。



……ああ、そうだよ。

好奇の目で見られたっていい。それでも、好きなものを貫きたいんだよ。──どうせ他人なんて、他人でしかないんだから。大して興味もないじゃん、ハルに。




「……なんで、許してくれないの、」



繁華街の隅で、うずくまる。

女の子になりたい。可愛い格好がしたい。髪も伸ばして、メイクして、キラキラしたい。……女の子、羨ましいな。



ハルをイジメてるグループの女なんて、女に生まれたくせにガサツで、すっぴんだってブスで、校則違反してまでメイクしてるくせに、それもブスだし。

そういう女が、世界でいちばん嫌い。



女に生まれてきたことを有効活用できない女。

ハルの方が、ぜったいに、かわいくなれる。



ハルの、ほうが……



「うう、っ……」



気付いたら、涙がこぼれてた。

顔を隠して小さくなって泣いてるハルは、きっとイジメられてる時よりも惨めで、情けなくて。



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