【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
当たり前のようにそう言ってくれたから、いつの間にか枯れた涙が溢れそうだった。
ハルのことを、はじめてハルと呼んでくれた人。
「俺は神喜 越。そっちは生田 静。
……詳しいことは、あとで教えるよ」
白銀の髪が、揺れる。
芸術品みたいな美しさに、目を奪われる。
「ハルのこと、引かないの?」
くい、と。
隣を歩く静が着ているパーカーの裾を引く。長時間座り込んで泣いてたハルは、お世辞にも綺麗とは言えないはずなのに、静は嫌な顔ひとつしない。
「どこに引く必要があるんだよ」
その言葉は、折れかけてたハルの心に強く刺さった。
……そんな言葉、掛けられたことない。
「いや静、それは無理があるでしょ。
俺はあんな場所で座り込むの嫌だしちょっと引くけど」
「洗えば済む話だろ」
「静ってめちゃくちゃ寛大だよね」
ほんとに、ハルの長ったらしい髪には何も思ってないらしい。
ぽんぽんとテンポよく交わされる会話は、荒んだ心に心地良かった。
「はい、ここだよ」
ふたりに連れてこられたのは、海辺にある大きい倉庫みたいなところだった。
……もしかして、ついてきたの、結構マズい?
え、ハル、監禁とかされる?
それともこのまま、海に沈められたりする?