【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
きっと鼓に、本当に"そんなつもり"はなかった。
だけど、ハルは。……ハル、は。
「えっ、ちょ、泣……っ!?
すまん! そんな嫌がると思わんかったやって!」
「っ、ちがうよお、」
ちがう。
嫌がるとか悲しいとか、そんなネガティブな感情で泣いてるわけじゃない。
むしろ嬉しかった。
こんなファッションでも否定しなくて、女の子みたいって言われたことが、ハルにとってはめちゃくちゃ嬉しかった。だから、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「ちょっと、何泣かせてんの?」
すきなものを、ハルはやっぱりすきでいたい。
「越……!
ちゃうねん、ホンマに泣かせるつもりなかってんて!」
「言い訳しなくていいから」
鼓を冷たい目で見つめた彼は、ため息混じりにハルの元へ歩み寄ってくる。
それから、「ハル」と呼ばれた名前。
「話聞いてやるから、こっちおいで」
2階にあがって、奥の、小さな部屋。
大きな机と、椅子が4脚。2脚ずつ向かい合うように置かれていて、それ以外はごちゃごちゃしていて物置みたいだった。
「そこ座って」
越の対面。
隣に静、斜め向かいに鼓。──このふたりが部屋についてきてもいいかと、越はわざわざハルに聞いてくれた。初対面の、こんな、相手に。