【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「言いたいこと好きに話していいよ。聞いてるから」
それだけ言って、越はまぶたをすこし伏せた。
さり気ない動きなのに、美しさに拍車がかかる。
「……ハル、女の子に生まれたかった」
ぽつり。
こぼれた言葉をきっかけに自分のことを話す。それを3人は、ただ何も言わず、黙って聞いてくれた。
「かわいい服が着たい。メイクも髪も。
……女の子が羨ましくて髪だけでもって反抗して伸ばし続けてたら、学校でいじめられるようになっちゃった」
人間は、不安を嫌う。
だから、不安の要素になる違和感を、取り除こうとする。大してハルのことなんて、気にしてないのに。"普通じゃない"って、そんなにおかしいこと?
ただ可愛いものが、好きなだけで。
「それは、いじめられることが悩み?
それとも、自分の意思を貫けないのが悩み?」
「……後者かな。別にいじめは気にしてないし」
「そう。
まあでも、ハルのその性格なら大丈夫でしょ」
越はそう言って、スマホを取り出す。
「もしもし」と誰かに徐に電話をかけ始めた。
「兼、悪いんだけど明日店の予約取れる?
そう。……んー、放課後なら何時でもいい」
いくつか必要そうなやり取りを交わし、電話を終えて綺麗に口角を上げる。
その表情はひどく大人びているのに、なんだか子どもみたいにも見えた。
「俺が、ハルの望みを叶えてあげるよ」