【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
そんな胡散臭い言葉を吐いて、その日ハルは家まで送り届けられた。
抱いた感情は「やっぱりか」で、それ以上も以下もない。誰かに伝えることですこし気は晴れたけれど、かといって期待なんてしてなかった。
そんなもんだよね。
だから結局ハルは寝不足のまま、腫れ物に触れるように気をつかってくる母親を適当にあしらって、今日もまた、いじめの続く教室に足を運ぶ。
何も、変わりやしないんだよ、どうせ。
初対面なのにみっともなく泣いてしまったことが恥ずかしい。
一瞬でも喜んでしまった自分に、愚かさを感じる。
「おーいっ、ハルー!」
「……は?」
本気でそう思ってた。──その瞬間までは。
放課後。
寝てしまうと本当に何をされるかわかったもんじゃないから、今にも飛びそうな意識を、自分の手のひらに爪を食い込ませることで1日保った。
ようやく終わった長い時間。俯きがちに家に帰ろうと学校を出る直前、馬鹿みたいな声で"ハル"と呼ばれて顔を上げてしまった。
その声に、聞き覚えがあったからだ。
「……、」
越、鼓、静。……あと、だれ、あれ。
わかんないけど、なんかもうひとりハルよりも頭の悪そうな男がひとり。ニコニコしながら手を振ってくるのは予想がついていた通り、鼓だった。
「なんで、」
周囲の人間が、ハルのことを、見てる。
──ハルをいじめてる、アイツらも。
指が、震える。……やめてよ、こんなの。