【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
すこし歩いてたどり着いた先は、美容室だった。
って言っても、SNS映えする!ってほどのおしゃれ美容室でもなければ、街の床屋さんほど古臭くもない。
「おかえり、兼」
カントリー調のその店は、ハルの好みってほどの可愛さはなかったけど、自然と落ち着く感じがした。
兼が扉を開けると、迎え入れてくれた女性が一番に声をかける。"おかえり"?
「ただいま。この子が約束してたハル!
とびっきり可愛くしてやってよ、母さん」
……ああ、兼のお母さんなんだ。
だから昨日、越が電話掛けてたのか。っていうか待って。"とびっきり可愛く"って言った?
「ちょっ、」
慌てるハルを、越が前へ追いやる。
文句を言おうと振り返ったら、みんなが優しい顔をしてたから、思わず押し黙る。……ばかじゃないの。
「ハルちゃん、こっちへどうぞ」
ハルに優しくしたって何のメリットもないのに。
なんでそんなふうに、無条件に優しさを差し出してくれるの。なんでもない顔で、「いってらっしゃい」って、見送ってくれるの。
「……、ひとりでも先に帰ったらキレるから」
素直になる方法なんて、わからない。
いつからか人の目を避けて、人の気配を避けて、誰とも向き合わずに生きてきたから。──壁をつくっていたのは、理解なんてされるわけないってそんな意固地に囚われた自分だったのに。
「静、この間俺が教えたゲーム入れてくれた!?」
「………」
「ぜってー入れてねーじゃん!! 鼓と越は!?」