【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
ハルの望みは叶ったと言えば叶ったし、叶わなかったといえば叶わなかった。
兼のお父さんに髪を切りそろえてもらったハルは、兼のお母さんにひとつずつ教えてもらいながら、実際にメイクをした。
……けどまあ、口先だけのハルには、はじめてのメイクはそう簡単にはできなくて。
アイラインなんて綺麗に引けたもんじゃないし、アイシャドウをグラデーションに乗せるのでさえ、かなり下手だった。
でも、兼のお母さんはそんなハルを笑うことなく、最後まで丁寧に教えてくれた。
出来上がったハルは、本当に不格好そのもの。
「なんか思てたんとちゃうな」
鼓にそう言われたときは、一回やってみてから言えよとぶっ飛ばしたくなったけど、ハルだってそう思ってたから仕方ない。
なんか思ってたのと違う。だけど、すごく。
「そ? いいんじゃない、別に」
──ものすごく、楽しかった。
「……あの、」
めちゃくちゃになったキャンバスをまっさらにしたあと、お礼を言って美容室を出た。
兼の両親は本当に親切で優しくて、今回のお代は要らないからまたお店に来てねと見送ってくれた。
待っててくれたみんなに駆け寄り、越の服の裾を引いて呼び止める。
立ち止まる彼につられるようにして、全員が足を止めた。
「……あ、りがと」
人を避けて、遠ざけて、いつの間にか素直になることも忘れていた。
「ごめん」も「ありがとう」も、伝える術は言葉以外にもたくさんあったはずなのに。
「ラーメンかハンバーガー、どっちがいい?」
「……え?」