【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
えっちゃんは、はじめからハルのことを朝顔に入れるつもりだったらしい。静がハルに声を掛けてくれた瞬間から、ずっと。
──はじめて倉庫に行った時、えっちゃんが2階に上がって行ったのがその証拠だ。
「ラーメン……?」
「ん。じゃあそれで」
歩幅を合わせて、歩いてくれる仲間。
もう、人目を気にして歩みを早めることも、遅めることもしなくていい。
「いらっしゃい。お、また仲間が増えてるな」
「おっちゃんのラーメン美味いから、新メンバーにも食べさせてやろうとおもてなー。
ハル。今日は俺が奢ったるから好きなん選び」
もう、下を向いて歩く必要もない。
……堂々としてればいいんだ、ハルは。
「あ、の……中津くん、」
それからハルは変わった。
いや、ハルだけじゃない。"朝顔"のことを知った学校のイジメの主犯はハルのことを恐れだして、急に関わらなくなった。結局自分に好都合なことしか考えてなくて超キモい。
「あのね、わたしっ、」
「興味ないからどっか行ってくれる?」
メイクもめちゃくちゃ勉強した。
教師には口出しをされたけど学校にだってメイクしていったし、髪も兼のお父さんにミルクティーへ染めてもらった。ハルが気にしてた世界は、かなりちっぽけだった。
今までイジメを見て見ぬふりしてきた同級生たちから、女の子らしくする度に声を掛けられるようになったけど、そういうのはウザいから適当にあしらった。
たまり場に行けば、当たり前のようにハルのことを「ハル」と呼んでくれる人たちがいる。
ハルは、ハルのやりたいように生きてく。