【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「お前は上手くいってんだろ、王子と」
「うん……まあ」
二乃は越のことを、王子って呼ぶ。
昔一度会わせたことがあって、越の見た目故にそう呼んでるらしい。確かに美しさで考えれば王子そのものだとわたしも思うけど、言ったら越を調子に乗らせそうだから本人には言ってない。
ちなみに性格は王子っぽくはないわよ、と思ってることも、黙ってる。怒られそうだし。
越に怒られて良いことなんてないし。
「なんだ? そのツラ。
好き過ぎて引っ越しまでしてやったんだろ?」
お茶菓子として出したクッキーを、遠慮なく開けていく二乃。
二乃が持ってきてくれたものだし、残ってもひとりで食べ切れないから良いんだけど。
ちょっとは遠慮した方がいいんじゃないの?
「そうね。二乃よりは上手くいってるわ」
「お前なんか俺に恨みでもあんのかよ」
「ないわよ。あったら家に入れてない」
躊躇なく話せるから、なんだか安心してるだけ。
朝顔のみんなみたいなノリもないし、彼岸花のみんなみたいに気を遣うこともない。
「そういやお前、なんか老けた?」
「出てってくれるかしら」
いろんなことが変わったから、すこし疲れたのかも。
入学して間もなく彼岸花のみんなと関わることになったし、学校でも肩身は狭いままだし。