【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
何店舗か歩き回って、立ち寄ったアパレル店。
爽やかすぎずシック過ぎず、ラフ過ぎず……と、二乃に似合う服が多い。雰囲気も物も良さそうなそれに、「あらそれ良いんじゃない?」と薄手のジャケットを見て告げる。
「試しに着てみたら?」
「んー……でもこれなら下も合わせたくね?」
「そうね。ジャケットがネイビーだから、
パンツはホワイトとかベージュが合わせやすそうだけど」
「俺も白派だったわ。さすが」
「ちょっと、」
白い歯を見せて笑う二乃が、手を伸ばしてわたしの頭を撫でる。
……越より背が高い。手つきは越の方が優しいけど。
「……雫ちゃん?」
なんて、思考したどうでもいいことが、不意に現実の声で途切れる。
呼ばれた方へ視線を向ければ、そこに居たのは声からの推測通り。驚いたことを強いて言うなら。
「稜くん……と、まつり、」
……その幼なじみが、一緒にいたことだけれど。
ああ、うん。マズいわね、この状況。今日は「用事があって倉庫には行けない」と言ってあったし、二乃との関係にやましいことは無い。
ただ。
「雫」
出会って日の浅いわたしでもわかる。
向こうに見据えたまつりが、明らかに怒ってるってこと。