【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「じゃあ、俺こっちやから帰るわー。
雫ちゃん、何かあったら遠慮なく言うんやで?あ、携帯とか持ってるんやったら連絡先交換しとく?」
「……携帯まだ持ってないの。
だから、もし買った時には交換してくれる?」
「そかそか、ええよー。
ほな、気ぃつけて帰るんやで?越に何かされたら俺が怒ったるから絶対言いや!」
「分かったから帰りなよ鼓。
過保護過ぎて見ててウザいって」
「心配しとるだけやんか!」
その言葉に、嘘は無いようで。
鼓は分かれ道を進む途中も、見えなくなるまで何度も何度もわたしたちのことを振り返っていた。
初対面のわたしを拾ってチームに連れていってくれた越といい、鼓といい。
心配になるくらい、ふたりとも優しいと思う。
「よし、邪魔者が消えたね」
にっこり。
嫌味ったらしくそう言った越が、わたしの手を引いて歩く。別に気まずいわけじゃないけど、家に着くまで何の会話もなかった。
「暑い中よく出来るね、その格好。
シャワーでも浴びてさっぱりしてきたら?」
綺麗なマンションに到着して、慣れた手つきでエントランスのオートロックを解除した越。
エレベーターが着いたのは7階で、家に入るなりわたしを見下ろしてそう言う。
「さすがにお風呂をお借りするのは……」
「ここまで来といて何言ってんの。
俺もベタベタするからシャワー浴びたいし、先入りなよ。一緒に入りたいならそれでもいいけど」
「っ……! むり!」