【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
そりゃそうだ。だってわたしはこの間、みんなに嘘をついて快斗と会っていたし、その快斗と少し言い訳のできない状況があったわけで。
挙句、どうしてかまつりは、わたしのことが好きだし。
「……いとこよ、いとこ。
この間みんなの前で電話に出たでしょ?」
面倒なことは回避したいと素直にそう話せば、まつりは「ああ、」と思い出したように納得してくれる。
それで事なきを得られると思ったのに。
「どーも。雫の彼氏?
どんな男か知らねーけど、俺ケッコーこの女の相手には厳しいよ?」
なんてことしてくれてるんだ、この男は。
「……二乃」
いや、それが間違いじゃないことは知ってる。
実際、二乃はわたしのことを気に掛けてくれてるし、越を二乃に会わせたのもその理由だ。そして越のことを、二乃は信頼してくれてる。
「何言ってんの」
「だってアイツ、お前に絶対気あるだろ。
王子がどんな反応するかも気になるしな」
小声で二乃に文句を言ったら、同じボリュームでそう返された。
傍から見ても、まつりの気持ちは分かりやすいらしい。……じゃなくて。
「初めまして。井瀬谷 稜介です。
こっちは幼なじみの舘宮 まつりで、」
「っごめん稜くん気を遣わせて……!
大丈夫! 二乃が変なこと言ってごめんね!」
気持ちはありがたいけどそれは今じゃない。
慌てて遮って、「ほら行くわよっ」と二乃の背中を押す。服が買えないことを嘆いているけれど、そんなことは後回しだ。
「あれが王子のライバル、ねえ……」