【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
ここまで来たらもう大丈夫だろう、というところでようやく二乃をつかんでいた手を離す。
何か思いつめたような顔をするから「なによ」と問うてみたけれど、「なんでもねえよ」と誤魔化されただけだった。
「んじゃ、飯食って帰ろーぜ」
「え? ごはん作るつもりだけど、」
「食品売り場行ったら、あいつらとまた鉢合わせる可能性もあるだろ。
お前の手料理はまた今度に取っとくよ」
……適当なことを言っていたわけじゃないのか。
確かに二乃の言う通り、またふたりに鉢合わせるのはどう考えても面倒だ。わかった、と頷けば、まるで子どもをあやすみたいに頭を撫でられた。
「しゃーねーから奢ってやんよ」
同い年なのに、たまに二乃はお兄ちゃんみたいな優しさがある。
そういうところに、こうやって頼れるだけの安心感があるんだと思う。
「なー雫」
「……なぁに?」
「王子と上手くやれよ?」
「どうしたの、急に」
できることなら、わたしも越との関係を上手く続けたいと思っているけれど。
どういうこと、と眉を訝しげにひそめていたら、「わかってねーな」と言われてしまった。それどころか。
「いや、さっき俺のことを明らかに敵対視してたあいつ。
──どっかで見たことがあるような気がすんな、と思って」
香り立つように、謎が残っただけだった。