【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



ここまで来たらもう大丈夫だろう、というところでようやく二乃をつかんでいた手を離す。

何か思いつめたような顔をするから「なによ」と問うてみたけれど、「なんでもねえよ」と誤魔化されただけだった。



「んじゃ、飯食って帰ろーぜ」



「え? ごはん作るつもりだけど、」



「食品売り場行ったら、あいつらとまた鉢合わせる可能性もあるだろ。

お前の手料理はまた今度に取っとくよ」



……適当なことを言っていたわけじゃないのか。

確かに二乃の言う通り、またふたりに鉢合わせるのはどう考えても面倒だ。わかった、と頷けば、まるで子どもをあやすみたいに頭を撫でられた。



「しゃーねーから奢ってやんよ」



同い年なのに、たまに二乃はお兄ちゃんみたいな優しさがある。

そういうところに、こうやって頼れるだけの安心感があるんだと思う。




「なー雫」



「……なぁに?」



「王子と上手くやれよ?」



「どうしたの、急に」



できることなら、わたしも越との関係を上手く続けたいと思っているけれど。

どういうこと、と眉を訝しげにひそめていたら、「わかってねーな」と言われてしまった。それどころか。



「いや、さっき俺のことを明らかに敵対視してたあいつ。

──どっかで見たことがあるような気がすんな、と思って」



香り立つように、謎が残っただけだった。



< 281 / 295 >

この作品をシェア

pagetop