【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「知ってる? 雫。
男の家にノコノコ着いてきて、挙句シャワーを浴びたらそれはもう"同意"なんだよ」
「な、にが、」
「知らない? それとも、わかんない?」
ただただ優しく聞かれているだけなのに、どうして感情が責められているような気がするんだろう。
乾いたように、何も言葉が出てこない。頬を撫でていた手がするりと動いて、またわたしの顎を掴む。
「……それか、わざと誘ってる?」
「ん、っ」
さっきも同じ体勢だったから、何をされるかはわたしも分かっていたはず。
それなのに拒めなかったどころか、拒まなかった理由なんてものはひとつしかない。
「っ、越、」
「なに?」
一度や二度じゃ済まされない。
何度もキスされて、そのたびに角度が変わって、嫌じゃないのに涙がぽろっとこぼれ落ちる。濡れたままの髪から、涙みたいに水滴が垂れる。
「っ……」
この美しすぎる男に、どうしようもなく、惹かれる。
キスの最中に目を開けていいのかどうかも、経験がないからわからない。
「ほ、かの子にも、同じことするの?」
息が苦しい。
くちびるはもう離れたのに、呼吸しづらいのは密なこの空間のせい。