【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
するりと、ヘアゴムを取って髪をほどく。
ああ……髪にも結んだ跡ついちゃってるし。
「残念。せっかく見えるように結ばせたのに」
「っ、恥ずかしいからやめてよ」
「恥ずかしがらなくていいんだよ。
彼女なんだからもっと自信持てばいいのに」
彼女。
そのワードにいちいち反応して赤くなってしまうわたしは、あまりにも恋愛経験が無さすぎる。
「それとこれとは別な気もするけど……
まあ、越が彼女にするってことは、よっぽど好きってことなんだろうし」
兼くんが、苦笑する。
"よっぽど好き"なんて。知らない誰かがこの会話を聞いたら、子ども同士の戯言だと思うだろうか。
「よかったねぇ、雫ちゃん。
えっちゃんは雫ちゃんにベタ惚れみたいだよぉ」
「っ、」
「東さんが出入り許可したって言ってたぁ。
ってことは、雫ちゃんここにいっぱい遊びに来てくれるんでしょぉ?」
「……それは雫に任せるけど。
雫が来たいなら、いつでも来ていいってことだよ」
じんわり、胸があったかくなる。
いつでも。そうやって迎えてくれる人なんて、わたしには、いなかったから。
「もう昨日みたいに夜中に出歩いたりしないで。
何かあったらその時は俺を呼べばいいから」
越は、わたしのヒーロー。
行くあてのないわたしを助けてくれた、唯一無二の。