【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
◇
「うう……
さみしいよぉ。たまには帰ってきてねぇ」
中学3年、3月。
東さんは後任である7代目の幹部に彼らを指名し、トップを越に譲った。そしてわたしは正式に朝顔の姫の座につき、南への旅立ちの日。
ハルちゃんは瞳にいっぱい涙をためて、わたしに抱きついてくる。
そんなハルちゃんを、あきれたように見下ろしている越。
「二度と会えなくなるわけじゃないんだから」
「でもなのぉ……!
毎日いっしょだったんだからさみしいんだよぉっ」
「ハルちゃん、これからは連絡できるから大丈夫よ」
さらさらのミルクティーヘアを撫でる。
ひらっと新しく購入したスマホを振るわたしに、ハルちゃんは嬉しそうにうなずいてくれた。
「しょうもないことでバレるなんて勘弁だから。
俺らの名前は絶対分からないように登録しておいてよ」
購入した翌日に、越にそう言われて。
いちばん連絡を取り合う越は兄として登録することを決め、ほかのメンバーもそれぞれ画面の表示だけでは分からないようにしておいた。
ハルちゃんだけは、『ハルちゃん』で登録してるけど。
「そう簡単に事が進むわけじゃねえだろうし……
雫ちゃん、自分の身が危険だったら迷わず帰って来いよな?」
「ほんまにやで。
上手くやらなあかんって思うのも大事やけど、自分のこと一番大事にしぃや」
兼と鼓に心配されて、「うん」とうなずく。
話が出た時から、わたしよりもわたしのことを心配してくれているふたり。その優しさだけで、頑張ろうって思える。
「……雫」