【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
いつも物静かで、わたしとはほとんど話すことのない静。
出会ってから今までだって、両手の指を折って数えられそうなくらいしか、会話したことないのに。
「あまり無理はするなよ」
「うん、」
「いつでも帰ってこればいい」
そうやって伝えてくれるから、わたしまでハルちゃんみたいに泣きそうになった。
わたしたち朝顔7代目の気持ちは、絶対に変わることなくひとつだ。
「ありがとう、静」
幹部のみんなと別れを惜しんでいたら、「雫さん」と声を掛けられる。
わたしがここに出入りするようになってから、越の彼女として慕ってくれていた朝顔のみんな。6代目と同級生のメンバーは、卒業してしまったけれど。
「俺ら、雫さんに何かあったら飛んでいきますから」
「いつでも呼んでくださいね!」
「でも"何かあったら"って不穏じゃね?
何もないのが一番なんだから」
「ふふっ、ありがとう」
まっすぐな言葉に、笑みが漏れる。
離れるのは寂しいけれどそのまま倉庫を出て、駅まで送ってくれるらしい越の隣を歩きながら、出会った瞬間のことを思い出す。
もしあの時、越に出会ってなかったら。
声を掛けられていなかったら、わたしの人生は、きっと。
「今さら遅いのはわかってるけど。
……嫌なら、あいつらの言う通り無理しなくていいんだよ」