【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
越がそんな弱気なことを言うなんてめずらしい。
いつだって、俺についてこいって感じなのに。
「無理してるように見える?」
「いや?
雫が嫌がってるようには見えないけど。……この選択が本当に間違ってないのか、まだ自分の中で少しだけ迷ってる」
「あら、越もそんなこと思ったりするのね」
細くて白い手を、自分の手で握る。
するりと動いた指先が、わたしの指を絡め取った。
「……まあ。
さすがに心配はしてるよ、俺も」
……ふたりきりのときだけ、越は甘くなる。
優しいその表情もその声もそのセリフも。知っているのはきっとわたしだけで、これから先も、わたしだけだったらいいのに。
「あのさ、雫」
「なぁに?」
越が、立ち止まる。
つられて足を止めれば、越は何か言おうとして、一度口を閉じた。
「……愛してる」
「っ……わたしも、愛してる」
普段はあまり聞けない越からの、愛の言葉。
それに同じ言葉を返せば、越はふっと口角を上げて空いた方の手でわたしの頭を撫でた。
越は。
……わたしに何を言おうとして、隠したんだろう。