【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



優しい稜介の言い方に安心したように少しだけ笑みを見せた雫ちゃんは、ふるふると首を横に振る。

それから「せっかくだから2限目はサボるわ」と、俺や快斗を見やった。



「誰かさんたちのおかげで。

わたしこのままサボっても怒られないみたいだし」



「……雫ちゃん、実は結構(したた)かだよねえ」



何にも意外と動じてないっていうか、正直っていうか。

今までに出会ったことのないタイプの女の子だから、つい返答が気になってしまうわけで。



「話は終わったみたいだし、わたしは行くわ。

ここ、どうやらあなたたちの部屋みたいだし」



「……雫」



彼女が、椅子から立ち上がって埃を払うようにスカートを手で撫でる。

その彼女を引き止めたその声に、おそらくその場の全員が驚いた。




「2限も始まったとこだから、サボるにも結構な時間だろ。

無理に出ていかなくて構わない。コイツらがやらかしたことだ、その責任は取る」



この学校の女の子なら、誰もが舘宮 まつりの彼女になりたいその理由。

美貌はもちろんのことだけど、それだけじゃない。



「……でも、」



「ここを出て行って、サボるのに行くあてもないだろ」



「……うん」



それはまつりが、極端に女に興味が無いってこと。

俺らは中学から一緒にいるけど、まつりが自分から女の話をしたこともなければ、俺らのそういう話に乗ってくることもない。



女の名前すら、呼んでいるのを聞いたことがない。

そんなまつりの、唯一無二の彼女というポジションには、俺の遊び相手になるのとは比べ物にならないレアリティがついてる。



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