【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
◇
「りょ、りょーくん。怒ってる?」
「別に怒ってないよ?」
「そ、そっかぁ……」
お会計を済ませ、これでもかと中身の詰まったエコバッグを両腕に抱えながら、すこし申し訳なさそうな顔をしている咲ちゃん。
結局デザートを決めきれず、複数買ったらしい。
でもお会計が6000円近くだったのは、それだけが原因じゃないと思うわよ。
稜くんは何も言わずに払ってくれたけど。
「ありがとう稜くん」
お礼を言うと、稜くんは「どういたしまして」と穏やかに返してくれる。
基本的に稜くんはずっと優しい。怒らせさえしなければ。……怒ったとこ、見たことないけど。まつりが、稜くんがキレたらめんどくさいって言ってた。
「あ、」
スマホが、着信を知らせる。
画面を見れば『兄』と表示されていて、それに出ることなくスマホをポケットにしまった。
「出なくていいの? 雫ちゃん」
「うん、お兄ちゃんからの電話だから長いと思う。
夜帰ってから掛け直すことにするわ」
「そっか。
心配されてるかもしれないし、メッセージ送るとか、フォローはしておきなよ?」
「うん、そうするわね」
数回のバイブレーションで、出ないと気づいたのか電話が切れる。
たまり場にもどってきてすぐ、メッセージアプリで『夜掛け直す』と返したら、返信はなかったけれど既読はすぐについた。