【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



ムッとしてみれば、「冗談だよ」と笑われる。

わたしが座れるように椅子を引いてくれるから、そういうところだけ紳士。……というか、策士?



「優しくしてもあなたと遊ばないわよ?」



「はいはい。わかったよお嬢さん」



疑いを掛けるけれど、「わかった」と言われてしまえばそれ以上執拗に聞くこともない。

大人しくその席に着けば、わたしの頭をほんのすこし撫でるようにしただけで、優理は離れた。



「オメーよ。春休みに引っ越してきたんだろ?

っつーことは、この辺りのこと全然知らねーな?」



「……え、うん。知らないけど」



ぜんぶがぜんぶ嘘だと、いつかはバレる。

引越しの多い家庭であることも地方から移り住んできたことも嘘だが、春休みに引っ越してきたことと、このあたりのことを知らないのは本当。




ちなみに、優理に彼岸花を知らないと言ったのはもちろん嘘である。

むしろ、1年の中で、誰よりも彼岸花の舘宮 まつりの彼女というポジションを狙って入学してきたのはわたしで間違いない。



「じゃあ、少なくともネオン街には行くなよ」



「ネオン街?」



「そ。キャバとかホストとか、夜職の店が基本で出来てる街だから、用なんてねーだろうけど?

あの街をひとりでウロついてる女は、9割方金詰めばヤれるって思われてる」



……ああ、北側で言う繁華街みたいな。

越と出会ったあの場所も、似たようなところだ。



「ネオン街でのやり取りは、トラブっても大体警察が介入してくんねーから。

平和に暮らしたいならまず近づくのはやめとけよ」



「なるほど。忠告ありがとう。

あなたも言った通り、行くことはなさそうだけど」



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